僕の欲しい君の薬指


こんなの間違っている。こんなの許される物ではない。第一私は、天糸君が好きだけれどそう云う意味で好きではない。彼の言う通り、私が声を大にして訴えたってきっと誰も信じてはくれないだろう。


周囲の大人達も、私の仲の良い同級生も、皆彼の言葉を無条件に信じるだろうし、彼の味方になってしまうのだろう。どれだけ足掻いてもどれだけ私が反抗しても全て天糸君の思惑通りに動いてしまう。


そんな状況をどうにか打破したくて、地元を離れて一から新しい居場所を築く決断をしたつもりだった。親にすら自らの進学先を伝えなかったし、大学生活を過ごすマンションも自分で決めた。誰にも教えなかった。


天糸君には地元の大学に行くと虚偽の言葉を吐いて、彼が泊りがけの仕事へ出掛けた隙を見て計画を進めてきた。そうして遂に穏やかで安寧の生活を手に入れた。そう信じて疑わなかった。



それなのに、それなのに、どうしてこうなってしまうのだろう。いつもいつも、どうして天糸君ばかりに神様は微笑むのだろう。



「さてと、それじゃあ、僕を捨てて勝手にこっちへ来た言い訳をしてよ、月弓ちゃん」



コテン。首を横に折って、私の額に唇を寄せた相手の声が(こだわ)りを詰め込んだリビングルームに溶けた。



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