僕の欲しい君の薬指
言い訳も何も、私の人生なのに天糸君にわざわざ説明しないといけない理由が分からない。そもそも私は間違った事をしたとも思っていない。
「……」
「いつまでそうやって黙っているの?月弓ちゃんにはお口があるんだから、説明してくれるよね?」
濡れた前髪越しにある翡翠色の双眸が、私を睨んでいる。「悪事を働いていない」と胸を張って言えるはずなのに、こんな風に相手に追及されると本能的に萎縮してしまう自分がみっともない。
年下の男の子に主導権を掌握されている自分を客観視すれば、その余りの滑稽さに自嘲的な笑みが落ちる。
まさかこの部屋に初めて入った自分以外の人間が天糸君になるなんて、期待に胸を膨らませながら引っ越し作業をしていた一ヶ月前の私は思ってもみなかっただろうな。
「私、天糸君を捨てたつもりないよ」
「へぇ。でも僕に何も告げずにコソコソと上京してたじゃない」
「言う必要はないと思ったから」
「……」
「私の人生だし、私のしたいように生きたい。私は、天糸君を拾ったつもりもないし捨てたつもりもないよ」
貴方の恋人になりたいと願う人は星の数ほどいるんだよ、だからどうか私にばかり執着しないでよ天糸君。きっと天糸君には私以上に素敵な相手がいるだろうし、私よりもずっと天糸君の隣が似合う女性が絶対他にいる……「これ以上その笑えない冗談を言ったら、月弓ちゃんの綺麗な首を本息で絞めるよ」