僕の欲しい君の薬指
振り絞った勇気をへし折る様に吐き出された声がソファーの上で溶けて消えた。向かい合って私の膝の上に跨った彼が、冷徹な瞳でこちらを見下した。
ポタリ。相手の髪から滑り落ちた水滴が私の頬に衝突して弾き飛んだ刹那、私の首に彼が冷たい両手が触れた。その行動に息を吸うのさえ憚られるまでの緊張感が私を刺す。
「ふふっ、あはは、あははは!!!」
奇怪な笑い声だけが沈黙を割いている。眼も笑っていなければ口許すら緩んでいない相手の狂った姿に、言葉を失い混乱する。壊れた機械みたいに不気味な笑い声のみを響かせる天糸君が、こちらの恐怖心を最大限に煽り立てる。これまで味わった事のない言い様のない憂懼に、ガクガクと身体が震えた。
何か…何か言わないと。このまま相手の空気に呑まれては駄目だ。何か…何か…何か…。
「天糸君、落ち着い…んぐっ……んんっ」
私の顎を掴んだ彼の手が、強引に顔を持ち上げた。やっとの思いで紡いだ言葉は、天糸君からのキスによって言い終わる前に呆気なく散った。