僕の欲しい君の薬指



天使の様な私の従姉弟。だけどこの子は残酷で、こちらの感情なんて華麗に無視して自らの(ひず)んだ愛で躊躇なく私を翻弄する。


昨日だってそうだ。解いた制服のネクタイで、年上らしさの欠片もなく泣きじゃくる私の両手首を器用に拘束した彼は、愉快気に表情を崩して私の鞄から携帯と家の鍵を奪い取った。



「これで明日は二人きりだね。ずーっと、月弓ちゃんといられるね」



ふふっと声を落として頬に(えくぼ)を作った相手の策略通り、私は外に出る手段を失いこの部屋に留まっている。不覚だ。とても悔しい。私の家のはずなのに、全然心が休まらない。


よりにもよって、多忙なはずの天糸君は今日一日オフらしい。元々学業の方を優先すると事務所に言っているらしく、他のメンバーも漏れなく学生をしているからスケジュール調整の融通が利くとの事だった。



仕事の都合までも神様はこの子の味方ばかりだ。リビングのソファへ横臥した私は大きな大きな溜め息を吐き出した。


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