僕の欲しい君の薬指
天糸君に何かされるのではないかと警戒してまともに眠れなかったせいか、今更強烈な睡魔が襲い掛かってきた。ウトウトしながら重くなる一方の瞼をどうにか持ち上げる。
その不毛な格闘に敗北を喫する寸前だった。私の目元に冷たい体温が触れた事で急激に眠気が何処かへ吹っ飛んだ。開けた視界を独占したのは、口をへの字にして頬を膨らませている天糸君の貌だった。
いかにも不満があります。そんな表情を浮かべている。不満があるのは私の方なのに……。
「何で月弓ちゃん、僕の隣に寝てないの」
「え?」
「目覚めて独りぼっちとか、最悪な気分」
「……」
「寂しい想いさせないでよ」
「きゃっ」
寝癖で乱れている髪をくしゃくしゃと乱して掻き上げた彼が、隣に腰を下ろしてすかさず私の身体を抱き寄せた。鼻腔を擽ったのは天糸君の甘い香りと、私の愛用しているシャンプーの香りが混ざったそれだった。
彼が私の胸に顔を埋める。柔らかな彼の髪の毛に首筋をなぞられた。
「月弓ちゃん、好き」
「……」
「月弓ちゃん、愛してる」
「……」
「月弓ちゃんのせいで、胸が苦しい。だから慰めて」
我が儘な性格は幼い時から何も変わっていない。私も苦しいよ。私も、天糸君のせいでもうずっと胸が苦しいよ。
体温を振り払いたいのにそうできないのは、きっと彼が赤ちゃんの時から可愛がってきた従姉弟としての情けが邪魔するせいだ。中途半端な優しさを彼に向けてしまう自分が恨めしい。