僕の欲しい君の薬指


この子といると、どうしても生温(なまぬる)い優しさを注いでしまう。それを避ける為にも地元を離れて単身でここへ来たと云うのに、これでは何も変わっていない。寧ろ私の両親や彼の両親が周りにいないから余計に状況が悪化している。


彼をちゃんと突き放さなくちゃいけないと理性は分かっているのに、彼と一緒に育ってきた本能が彼を突き放すのは残酷だと私を責める。



「月弓ちゃんと離れていた一ヶ月と少し。死んだ様な毎日だった」

「天糸君…」

「僕は月弓ちゃんよりも月弓ちゃんを知っているの。だから、月弓ちゃんが僕を置いて遠くへ行こうとしてる事も知ってたよ」

「いつから…いつから知ってたの?」



思い返してみても、天糸君は微塵もそんな素振りを見せていなかった。私が地元の大学へ行くと嘘を付いた時も「受験頑張ってね」と言ってくれたし、「月弓ちゃんが地元の大学に行くから僕も地元の高校に行くって決めたよ」とも言っていた。


だから私は天糸君をちゃんと騙せているのだと過信してしまったのだ。しかし彼が今吐いた台詞が本当だとしたら、彼も私同様嘘を吐いていた事になる。そこまで思考を巡らせて、改めて彼が恐いと思った。



「勿論最初からだよ」



麗しい貌を上げて視線を合わせた相手の目尻が下がる。射し込む太陽の光に反射した翡翠色の双眸が、宝石みたいに美しく輝いていた。



「だから月弓ちゃんのお部屋に監視カメラを付けていたし、探偵も雇った」



戦慄の走る発言を淡々と放つ彼は、無邪気で無垢な子供の様にはにかんだ。



「このマンションが新築で良かったぁ」


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