僕の欲しい君の薬指
息苦しさから逃れる様にバスルームへと辿り着いた。熱い温度のシャワーが、泣き疲れた身体には丁度良かった。ちょっと値段は張るけれど、香りの良いシャンプーで寝癖塗れの髪を洗い丁寧にコンディショナーを馴染ませる。
鏡に映る自分は相変わらず悲惨な顔をしていて、どう頑張っても可愛いとは思えない。さっき、天糸君に囁かれた「可愛い」の言葉を反芻して、頬が火照る。だけどすぐに忘れなければと思い直し、頭を左右に振った。
「これからの四年間、不安しかないよ」
独り言も、浴室だとやけに大きく響いてしまう。学校で私の前に姿を現した彼を見た時点で、彼から逃れられない現実を痛感した。
まさか部屋まで隣同士だったなんて…今の今まで気づかなかった自分の鈍感さに嫌気がさす。
吸っても吸っても息が苦しい生活が続く事が決定したと云うのに、驚くくらい冷静にこの現実を受け止めている自分がいる。今更何かをしたところで不毛な悪足掻きにしかならない事はこれまでの人生で嫌になる程に学んだ。
だから、馬鹿みたいに喚き散らしたり、嘆いたり、新しい計画を練ろうなんて思わない。どうせ私がどれだけ綿密な策略を立てたとしても、天糸君の手に掛かればいとも容易に崩されてしまう。
「私達、どうなるんだろう」
ねぇ、天糸君。私は願わくば、天糸君と普通の従姉弟同士の関係に戻りたいよ。そう考えてしまう私が、間違っているのかな?