僕の欲しい君の薬指



輪切りにされた檸檬が浮いている水面が照明に当たってキラリと光る。カランと鳴らして檸檬紅茶へ溶ける氷。フォークとスプーンが皿に触れる無機質な音。この部屋に引っ越してきて初めて誰かと共にする食事がこんなにも息苦しい物になるなんて思わなかった。


正面にある美しい貌は、ひたすらこちらを向いて目を細めている。ぷっくりと存在感を現す涙袋と、頬にまで伸びる睫毛の影。こうして口を結んでいると、まるで西洋のお人形みたいだ。



「天糸君」

「ん?」

「そんなに凝視されると、食べにくい」

「食べにくそうにしている月弓ちゃんを見たいからわざとやってる」

「意地悪だね」

「僕が意地悪?」



まともな会話らしい会話が食卓に落ちたと思ったのも束の間だった。唐突に左手に握られていたフォークの鋭利な先端で私の唇を軽く突き刺した相手に、背筋が凍り付いた。少しでも彼が力を込めれば、又は私が少しでも動いてしまえばあっさりと深く唇を貫いて鮮血が噴き出てしまいそうだ。


突飛な相手の行動に驚く間もない。目を見開いた私の唇が緊張と不安で震えていた。


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