僕の欲しい君の薬指
。。。65
「ていうか月弓って、俺のこと知らねぇの?」
サラリと私の下の名前を呼んで首を横に折った彼に、またもドキリと胸が鳴る。やっぱり私達は何処かで会った事があるのかな、そう考えて相手の美しい顔をよくよく見ながら記憶と照らし合わせてみる。けれどやはり、私達は初対面で間違っていないという結論が出た。
「ちょっと可笑しいなと思うかもしれないんですけど」
「ん?なに」
「さっきからずっと、榛名さんに既視感を抱いています」
「……」
「でも私達、初めましてです…よね?」
榛名 珠々なんて美しい響きの名前にも身に覚えがない。ただ、自分の記憶力にも自信がない。疑問符をつけて返す私に対し、榛名さんは愉しそうに笑っている。
「うん、確かに初めましてだ。そっか、俺のこと知らねぇのか。なら俺もまだまだだな」
こんなに目立つ容姿をしているから、もしかするとこの大学のミスターだったりするのだろうか。その辺の情報に滅法弱い私は何だか申し訳なくなって眉を八の字にした。
だけど相手は特に気にも留めていない様子で「月弓は悪くねぇよ」と言って優しく目を細めてくれる。