僕の欲しい君の薬指
好奇の目から逃げたくて大学を後にしたのに、街中に出ても尚集中する好奇の眼差し。この子は何処にいても目立ってしまう。人を惹きつけてやまない理由は容姿だけではないのだろう。
学年でも常に首位を争える程の聰明さや、彼自身から醸し出される言葉では上手く形容できない優艶な雰囲気。それに加えて幼少の頃からあったピアノの才覚。そう云った諸々の魅力の一つ一つが、彼の場合、一般人のそれよりも遥かに輝いているのだ。
彼にとってはこれが普遍なのだろうけれど、私にとっては特殊でしかない。それもそのはずなのだ。何せ彼は…「さっきから溜め息ばかりだよ、月弓ちゃん。大学にまだ慣れてないんだね」
私の思考を遮った美しい彼が、眉を八の字にしていかにもこちらを心配しているかの様な表情を浮かべた。わざとらしいな。それで以て白々しい。
「……」
誰のせいで溜め息ばかりだと思ってるの。胸中で厭味を吐きながら私は曖昧な笑みを貼り付けて無言を貫いた。強引に繋がれた手は、私の計画が失敗に終わり彼に拘束される四年間が幕を開けた証だ。指一本一本は丁寧に絡め取られていて、しっかりと握られている。
今度こそ逃げられると思ったのに。大学の四年間を機に自由を掴み取ったと喜んでいたのに。私の人生を賭けた計画は、彼によって一瞬で水泡に帰した。