僕の欲しい君の薬指
それから間髪入れずに投下された質問が「一体誰に髪を触られたの?」だった。急激に彼の表情から冷静さが消えた。肌を突き刺すみたいに鋭い視線がグサグサと容赦なく降りかかる。
質問の意味がよく分からなくて、口を噤んだ。それが気に喰わなかったのか、彼の双眸が更に温度を低くした。そこには、天使と謳われているアイドルグループApisの羽生 天らしさが欠片もなかった。
「誰にも触られてないよ」
まだ覚醒し切っていない脳味噌がどうにか絞り出した答えがこれだった。手首がソファの肘掛けに押し付けられていてとても痛い。鼻腔に充満する天糸君の香りが呼吸器を絞め付ける。やはり彼がいると、どうしようもなく息苦しい。
吸っても吸っても、酸素が足りない。そんな感覚に犯される。こんな距離感、間違ってる。どうしてもそんな事ばかりを考えてしまう。
深い翠《みどり》色の宝石の様な瞳を縁取る彼の長い睫毛の影が、私の頬に落ちていた。少し彼が距離を詰めれば互いの唇が重なってしまいそうな距離だった。
「嘘つき」
「嘘じゃな…「この間、広告を務めたブランドの男性用の香水。そのベルガモットの香りが月弓ちゃんからするんだもの」」
“それなのに誰にも触られていない訳ないでしょう?”
“ねぇ、そうだよね?僕だけの月弓ちゃん”