僕の欲しい君の薬指


彼から指摘されて初めて、脳裏に真新しい記憶が過る。私の頭をくしゃくしゃと優しく撫でる榛名さんの微笑を思い出した。



「何、誰の事思い出してそんな可愛い顔してるの」

「誰でもないよ」

「ふーん、また嘘をつくんだね」

「嘘じゃな……んっ…」



不機嫌で染まった言葉が投下され、弁明しようとした私の声が妨げられた。重ねられた唇が、私の言葉を吸い取ってしまう。彼の舌の熱に融かされる。遠慮なく激しさを増すそれに、私のできる抵抗と云えば、せいぜい脚をバタバタと動かす程度の物だった。


私はキスが嫌いだ。天糸君にキスをされると脳の動きが停止してしまう。まともな思考がドロドロに溶かされる。自分が自分でなくなるみたいで、とても怖い。

彼の唾液で光沢の生まれた私の震える唇を、相手の舌がもう一度丁寧に舐める。心臓がバクバクと脈を打ち、頭がクラクラする。



「僕に隠し事ができると思っているのだとしたら、そんな愚かな考えは捨てる方が賢明だよ」



この子は意地悪だ。この子は悪魔だ。



「ほら、本当の事を吐きなよ。吐かないなら…」


“僕は月弓ちゃんを襲うつもりだよ”



ゆるりと冷笑を湛えた彼に服を捲られたと自覚した時には、既に私の腹を天糸君の手が自由に這っていた。



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