僕の欲しい君の薬指
とても華奢なのに彼の何処にそんな力があるのだろう。手をそっと握って、私の後ろにばかり隠れていた天使はもういないのだと覚り哀しくなった。
「天糸君やめて」
「月弓ちゃんはやめてやめてばっかりだね。僕の欲しい言葉は全然言ってくれない癖に」
一瞬。ほんの一瞬だけ、彼の貌にも哀しみが浮かんだ様に映ったのは、見間違いだろうか。すぐにへらりと口角を持ち上げて、ニヒルな表情で私の肌を愛撫する彼に「んっ」と糖度の高い声が鼻から抜ける。
意識せずに出てしまった自分の物と認めたくない声が、余計にこちらの羞恥心を煽り立てた。恥ずかしい。もうこれ以上恥ずかしい姿をこの子の前に晒したくないのに、私の願いとは裏腹に現実はとても残酷だ。
天糸君の欲しい言葉?天糸君の欲しい言葉って何?そもそも、彼にも欲しい物がある事が意外だ。何もかも欲しいと願えば手に入る人生を歩んでいる様に見えて仕方がないからだ。
「私怒るよ」
「良いよ、怒ってよ。月弓ちゃんが僕に向けてくれる感情は、例えどんな類の物であろうとも愛おしいから」