僕の欲しい君の薬指
どうして私なの。その疑問を抱いたのはこれで何度目だろう。
信号が青に変わり、人の波と共に私達の歩みも再開する。端麗な横顔をちらりと盗み見して、完璧で非の打ち所のない相手に無意識に溜め息が口から落ちる。頭が痛い。計画が失敗したにも関わらずそこまで大きく落胆しないのは、きっとこの結果にすっかり慣れてしまったせいだ。
「ここに来て大丈夫なの?」
「どういう事?」
「仕事に影響あるんじゃない?」
「月弓ちゃんがいない世界で生きる意味なんてないもん」
「……」
「仕事は幾らでもあるけれど、月弓ちゃんはこの世に一人しかいないから」
「……」
「だから多少の影響なんて、月弓ちゃんのいない世界で生きる事に比べたら何てことないの」
長い睫毛がパチパチと瞬いている。私なんてマスカラとビューラーと美容液を駆使してやっと肉眼で認識できる程度の長さとボリュームだと云うのに、方や彼は何もしなくとも毛先が上に向いていて見事な弧を描いている。