僕の欲しい君の薬指
クッションが奪われ、その代わりに私の腕の中に天糸君が飛び込んで来た。
「……寂しい」
胸に貌を埋め、双眸だけを持ち上げ私を見つめる彼が小さく言葉を紡ぐ。シャツに皺が寄っている背中がいつもよりずっと小さく見えた。
「月弓ちゃんと離れたくない。寂しい」
心なしか泣きそうな声を絞り出して甘える彼はまるで、幼い時に戻ってしまったみたいだ。そう云えば、天糸君はしょっちゅうこんな風に可愛い我が儘を漏らしていたっけ。そして、彼が満足するまで私はよくこうして彼を抱き締めていたっけ。
狡いよ、天糸君。
翡翠色の瞳を潤ませ、ユラユラと揺らして、今更幼い頃と同じ表情を浮かべるなんて、天糸君はやっぱり何処までも狡いよ。そんな貴方を、突き放せない私も。そんな貴方の悲し気な背中に腕を回して抱き締めてしまう私も、狡いよね。
どれだけ天糸君に泣かされても、幾度となく天糸君のせいで悲しんでも、天糸君を傷つけたくないと思ってしまう。
「ねぇ、月弓ちゃん」
「ん?」
「月弓ちゃんが甘やかす人間は、常に僕でなきゃ嫌だよ」
「突然どうしたの?」
「いつも思ってるから口に出しておこうと思っただけ」
「心配しなくても私に甘えたいと思う人なんて、天糸君以外にいないよ」
この独占欲を可愛いと思ってしまってはいけないと分かっていても、可愛い独占欲を嬉しいと思ってしまってはいけないと分かっていても、本能にはどうしても抗えない。