僕の欲しい君の薬指
頭を撫でて欲しい。そう願った彼に、私は応えた。柔らかな髪に指を通してそっと撫でると、彼は幸せそうに口許に弧を描く。この瞬間だけは年相応の表情が顔を出す。
可愛い。私の胸がキュンと鳴る。
「天糸君は芸能のお仕事が大好きなんだね」
「……」
「ここまで天糸君が何かに熱心になっているのを見るの初めて。頑張ってね」
この子が輝いている姿を見るのが私は好きだし、いつも心から応援している。
天糸君はこれからもっともっと、輝いていくのだろう。もっともっと沢山の人を魅了し、感動させる人になるのだろう。現時点でも眩しくて遠い存在だと云うのに、これ以上人気が出たらいよいよ私は天糸君と会う事すら難しくなってしまうのだろう。
恐らくそう遠くないそんな未来を想像したら、小さな針で胸を刺される様な痛みが走った。
「何言ってるの」
「え?」
胸から貌を上げてきょとんとしながら首を傾げた天糸君が、私の両頬を掌で包み込んだ。
「僕、このお仕事大嫌いだよ。この世に存在するのは月弓ちゃん以外大嫌い」
「でも…芸能のお仕事は一生懸命やってるよね?」
「うん、やってるよ。大嫌いだけど仕方なく頑張ってる」
“夢を叶える為にね”
ふふっと愉快な笑い声を響かせた彼は、どうしてかほんの少し…否、とても恐かった。