僕の欲しい君の薬指
二時間後、リュックサックを背負っただけの軽装で天糸君は私の家の玄関に立っていた。
「本当に大丈夫?足りない物とかない?」
「大丈夫だよ、足りなかったら買うもん。それに撮影は衣装があるから問題ないよ」
「それなら良いんだけど…」
バケットハットを深く被りながら呑気に欠伸をする彼は、とても今から仕事に行く人には見えない。緊張とかしないのだろうか。私なら突然仕事が決まったらハラハラして落ち着かない自信がある。
玄関先に置いてあったサングラスとマスクを天糸君が手に取った刹那、二時間前に聞いたばかりの着信音が鳴った。どうやらマネージャーさんが到着したらしい。
「あーあ、二泊三日なんて果てしなく長いよ」
「頑張ってね」
「僕は月弓ちゃんに会えない事が辛くて仕方ないのに、月弓ちゃんは平気そうだね」
今日の彼は、何だかいつもより幼い気がする。頬を膨らませて寂しそうな表情を浮かべる相手に、心臓が締め付けられた。