僕の欲しい君の薬指
この世は不平等だけで成り立っている。彼の隣にいると常々そう感じるし、現実の非情さに虚しさすらも感じる。
「それに僕の仕事柄、こっちの方が都合良いんだって。」
「そうなんだ」
「うん、今まで移動が大変で断ってた仕事も多かったの」
「それじゃあ最初から東京が良かったんじゃない?折角お仕事貰えてるんだし……「月弓ちゃん、僕のお話聴いてなかったの?」」
急激に温度を失った相手の声色に、心臓が一突きされた。しまった、やってしまった。何も考えずに口を開いていた事を後悔してももう遅いのは誰よりも痛い程に承知している癖に、どうも回転の鈍い私の頭は、凝りもせずに同じ過ちばかり繰り返してしまうらしい。
全身から血の気が引いていくのがありありと分かる。動悸も激しくなり、冷や汗が背中を伝っていく。そしてあっという間に、じっくりと時間を掛けて植え付けられた恐怖に心が支配される。
「月弓ちゃんがいないと生きる意味がないって言ったよね、僕」
「でも…「でもじゃないよ、僕はただ、仕事よりも月弓ちゃんとずっと一緒にいたいだけなのに月弓ちゃんはそれを否定するんだね」」
「違う…「「地元の大学に行くなんて下らない嘘を僕に吐いた事、僕はまだ許してないよ」」
ふふっと柔らかな笑い声を漏らしているのに、彼の双眸は少しも愉しそうじゃない。相手の貌に浮かんでいるのはとても歪な笑みだった。だけど歪な笑みでさえ、彼が湛えると息を呑む程に美しい。