僕の欲しい君の薬指
静けさに包まれた玄関で脱力した私は、その場で崩れ落ちて床にストンとお尻をついた。彼の残り香が強くて、私の脳にまで届く。
「天糸君の意地悪。これ以上私の心を掻き乱さないでよ」
自らの唇を熱くする彼の余韻に指先で触れ、口を突いた弱々しい声がすぐに誰もいない玄関に消えていく。
寂しいと嘆く心に気づかぬふりをして、ドキドキと高鳴る心臓を服の上からぎゅっと握り締めた。天糸君に一々揺さぶられる心なんて、無くなってしまえば良いのに。そしたら息もし易くなるはずなのに。
「折角一人で自由の時間ができたんだから楽しまなくちゃ。このドキドキだって、不意打ちでキスされた事で気が動転しているだけだよね」
あの子がいると、どうしても私の呼吸は苦しいままなのだ。