僕の欲しい君の薬指
私がまさに今この瞬間彼の事を考えていたから驚いた。
湿度の高い空気が髪に容赦なく纏わり付く。きっと天糸君の髪はこんな気候でもサラサラなままなのだろう。
折角、数日間天糸君と離れて生活できる権利を得たはずなのに、この期に及んであの子の事を過ぎらせる思考が憎く感じる。
「こ、こんにちは、榛名さん」
「ふはっ、他人行儀なの傷付くんだけど?…こんにちは、涼海さん」
吹き出して肩を揺らしながら笑う相手が、私の頭の上にポンっと優しく手を乗せた。
勝手に身体が緊張して固くなっていたけれど、榛名さんの空気感がそれをあっという間に解《ほぐ》してくれた。
「ごめんなさい、他人行儀なつもりはなかったです」
「ん、そこまで深く傷ついた訳じゃないから気にすんな」
頭に置かれた榛名さんの手はとても温かかった。