『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「悪い、……仕事を思い出した」
「へ?……えぇっ?」
「急遽明朝に変更になった商談の資料がまだだったのを思い出した。悪いな」

俺は女の上から退き、ベッドから下りた、その時。

「一時間くらいいいでしょ?」
「あ?」
「もう少し、相手してよ」
「……お前、鏡で自分の顔見ろよ」
「なっ……」
「悪いが、俺の趣味じゃねぇ」
「な、何なのっ?!少しばかり顔がいいからってっ!」
「フッ、顔が好みのタイプで悪かったな」
「っ……」
「その歳で、あんまりガツガツしてると、相手してくれる男も逃げるぞ」
「っっっ~~」

俺は着替えるためにバスルームへと。
ジャケットの内ポケットにあるプライベート用のスマホで秘書にワンコールした。

着替えを済ませ、腕時計を着ける。
鏡を見ながら髪を軽く流す。
ワックスが落ちてるから、きまらない。

「こんなもんか?」

バスルームから出た、その時。
部屋のチャイムが鳴った。

待ってましたと言わんばかりにドアを開けると、無表情の秘書が姿を現した。

「もう宜しいのですか?」
「ん」
「では、失礼致します」

秘書は俺の横を通り過ぎ、部屋の奥へと。

「佐野様」
「なっ、何であなたがいるの?」
「上司の迎えに上がりました」
「っ……」
「佐野様のスマートフォン、こちらに置かせて頂きます。それと、宜しければこちらをお持ち帰り下さいませ」
「ッ?!」
「現時点までの精算は私の方で済ませておきます。これより発生した料金に関しては、佐野様の方で宜しくお願い致します。では、ごゆっくり」

秘書の如月は、丁寧にお辞儀をし踵を返した。

「お待たせ致しました」

俺は女を部屋に残し、秘書と共にホテルを後にした。

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