『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
その日の夜。
別々に帰宅した二人。
先に帰宅した響は、芽依のために寄せ鍋の用意をする。
野菜をカットし、土鍋に詰めているところで芽依が帰宅した。
「副社長が料理さなってるんですか?」
「ん、……と言っても、カットして詰めてるだけだけど」
「では、残りは私がしますので、シャワーでも浴びて来て下さい」
「いいよ、まだ」
「ですが…」
「一緒にするのもいいだろ」
「……そうですね」
部屋着に着替え、手洗いうがいを済ませた芽依がキッチンに立つ。
「副社長は料理をするの、お好きなんですか?」
「嫌いじゃないよ、何で?」
「そうなんですね」
「大学時代から一人暮らししてるし、簡単なものなら作るよ」
「そうなんですか?!」
「意外?」
「……そうですね」
「まぁ、そんなにマメな方じゃないけど」
彼が自宅に女性を連れ込むようなタイプではないのは知っている。
女遊びをしたとしても、プライベート空間に持ち込まない主義。
常に女性の影はあるにせよ、執着しない分、あまり家庭的な女性が身近にいるイメージが無い。
鶏団子のたねを作り、スプーンで土鍋に落とし入れていた、その時。
「ッ?!……副社長?」
「……響、だよ」
「っ……」
背後から抱き締めるように長い腕が伸びて来て、鶏団子を落とし入れている私の両手に彼の両手が重なった。
そして、色気のある甘美な声音が耳元に。
背中も両脚も両腕も……彼の体に拘束され、完全に逃げ場を失った。