『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
素早くベッドから逃げ出した。
バレたかもしれない。
いや、絶対にバレたよ。
どうしよう……。
規律のいい鼓動だったから、熟睡してると思ったのに。
だから、クリスマスの日くらい、たった数分でいいから彼に触れたかった。
洗面所のドアロックをして、冷水で顔を洗う。
恥ずかしい。
目が合ってしまった。
きっとバレてる。
だって、顔が真っ赤だったと思うし。
どんな顔して会ったらいいの?
もうテンパり過ぎてあらぬ方向に思考が傾いてく。
『ずっと好きだった』と伝えたら、どんなに楽か。
けれど、それを口にしたら……やっと一歩近づけた関係も清算しないとならないよね。
結婚願望が皆無の彼が、プロポーズ的なことを口走ったのだって、冗談に決まってる。
毎日傍にいる秘書の私を必要としているだけ。
一カ月ともたない秘書が、この三年代わることなく続けられてるという事実。
だから、彼にとったら念願の完璧秘書なのだろう。
私が結婚したら、彼の秘書をまた募集しなければならないのだから。
きっと彼はそれをするくらいなら、いっそのこと恋人のフリをしようと思っただけだ。
女性に対して口が上手いだけ。
他の女性と違うのは、特別な秘書だからというだけだ。
彼の秘書である限り、傍にいられる。
それでいい。
それ以上でも、それ以下でもない。
自宅マンションにでも一旦帰って、頭でも冷やして来よう。
これ以上、淡い期待すら抱かないように……。
メイク等と施し、彼のいる寝室へと戻る。
「響さん」
「ん?」
「自宅マンションに帰りますね」
「えっ?」
「ちょっとやることがあるので」
「……戻って来るよな?」
「…………はい」
「なら、いいよ。送ってくよ」
「あ、大丈夫です。寄り道するので」