『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
『夕食を一緒にどう?』
初めて彼女にデートの誘いらしいメールを送る。
いつも上司として彼女の同意も求めないような誘い方をしていたことに、今更ながらに気付いた。
副社長と秘書という関係性ではない、新しい関係性を築きたいから。
一人の男として、想いを寄せる女性に真摯に向き合うべきだと思うから。
時間と場所を記したメールを送る。
既読にはなったが、返信は無い。
例え時間になって来なかったとしても、それはそれで受け入れるつもり。
一度くらい断られたりスルーされたくらいじゃ、諦めきれない。
もうこの気持ちにブレーキをかけるのは止めたんだ。
行ける所まで行くと決めたからには、へこんでる暇はない。
今までの人生、楽をし過ぎた。
人生なんて、揺らぎが多い方が面白いに決まってる。
*
十六時。
一旦自宅に帰り、シャワーを浴びて、デート仕様の服に着替える。
待ち合わせの時間は十八時。
予約したお店に程近いJR新宿駅東南口。
今までなら彼女のマンションに迎えに行っていただろう。
だけど、『デート』をするなら、『待ち合わせ』をしてからの方がワクワク感が増す気がして。
俺らの関係が仕事上での関係性しかないから進展しないんだ。
だから、これからは楽をせずに、中高生にでもなったかのように目一杯恋愛を楽しもうかと思って。
モテ男の雰囲気?
デキる男のクールさ?
ハイスぺ男の余裕さ??
知らねぇよ、そんなもん。
だって、芽依はそんなもの、何一つ求めちゃいねぇ。
彼女が求めてるものを出し惜しみせずに与え続けないことには、一ミリたりとも先に進まない。