『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
白ワインが好みだと思っていたのに、今日は酎ハイを結構なハイペースで飲む彼。
メニューには、一応白ワインもある。
まぁ、店の雰囲気からして、注文するお客は少ないかもしれないけれど。
「年末年始、実家に帰るのか?」
「まだ決めてません」
「俺と、旅行にでも行くか?」
「え?」
「うちは新年だからと、親戚が集まって食事するとかないから」
「無いんですか?」
「うん。母親いないから、父親一人で負担も大きいし、毎年父親は親しい友人と海外旅行してるよ」
「意外です」
「それ、今日二回目だな」
焼き鳥を頬張り、彼はクスっと笑った。
「出会いがさ、会社の面接だったのもあるし、実際上司と部下という関係性なんだけど、それらを全部取っ払いたいんだよね、俺」
「……はい?」
「言い方が分かりづらいか、……そうだな、俺は秘書としての如月 芽依ではなくて、勿論、キサラギ製薬の令嬢としての如月 芽依でもなく。……一人の女性として、如月 芽依さんと付き合いたい」
「っ……」
「女に不自由しない仁科 響ではなく、勿論、金にも困らないハイスペの御曹司としてでもなく、一個人として、仁科 響を知って貰いたいし、その延長線上に俺との未来を描いて貰えたら最高なんだけど」
「……っ」
「三ツ星レストランだとか、セレブ御用達とか、高級ブランド店だとか、そんなことはどーでもよくて。口コミで星一つしか無い映画でも、芽依と一緒に観れたら素敵な時間になるし、食べログ評価が低いお店だろうが、閑古鳥が鳴いてる田舎町の定食屋だろうが、大好きな芽依と一緒に食べたらどんな料理も美味しく感じると思う」