『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



久しぶりにほろ酔い気分で帰宅する。
心の枷を外したからか、思ってた以上に気持ちが楽になった。

常に周りの目を気にして、カッコよくあり続けようと無意識に装っていた自分の殻を、たった一人の女のために、こんなにも簡単に打ち破ることができた。

もっと早くにすればよかった。

リビングのソファーに座る芽依を視界に捉え、ハッと思い出す。
ダイニングテーブルの上に用意しておいたものを手にして、芽依の元へ。

「芽依、メリークリスマス」
「え」
「昨日のワインとおつまみの御礼」
「あれは、私が飲みたかったからで……」
「照れるから早く受け取って」
「っ……、ありがとうございます」

ピンク、赤、紫色のチューリップにふんだんにカスミソウで包み込んだ花束。
春の花と思っていたら、市場に出回るのは冬場らしい。

ショップの店員さんに教わってアレンジして貰ったそれ。
俺の今の気持ちが込められている。

チューリップの花言葉、ピンクは愛の芽生え、赤は真実の愛、紫は不滅の愛。
カスミソウの花言葉は、清らかな心、幸福。

今までの俺なら真っ赤なバラの花束を用意しただろう。
だけど、素の俺は違う。
等身大の仁科 響は、どこにでもいるごく普通の二十代の男だ。

好きな女性を目の前にすれば、当然緊張もするし、照れもする。
彼女の視線一つで一喜一憂するし、心が疼く。


花束の香りを嗅いで、芽依がふわっと柔らかい笑みを浮かべた。

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