『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

シャワーを浴びて、彼から貰ったパジャマに袖を通す。

とろんと滑らかな肌触りと、薄い生地なのに着ているだけで温かい。
生地が呼吸しているみたいだ。

寝る準備を施し、意を決して寝室のドアを開けた。

寝室は常夜灯になっていて、所々にフットライトが付いているだけ。
彼を起こさないように、静かにベッドに潜り込む。

明日の朝、私のパジャマを見た彼と、ちゃんと向き合って話そう。
その先に、答えがあるはずだから。

キングサイズのベッドなのが有難い。
彼と距離を保って寝ることができる。

リモコンで加湿器のスイッチを入れ、スマホのアラームをセットしていた、その時。

「っ?!」
「……芽依」

背後から彼の腕が体に。

「こっち向いて」
「っ……」

着ているパジャマの質感で、完全にバレた。

彼の腕の中で体を反転させる。
恐る恐る視線を持ち上げると、薄明りの中、真っすぐな彼の瞳に捕らわれた。

「ありがと……着てくれて」
「んっ……」

優しく抱き締められた。
頬に触れた感触が、自分の着ているものと全く同じことに気付き、胸がトクンと跳ねた。

今なら言える。
今しか言えない。
今だからこそ、言わなくちゃ。

「響さん」
「……ん?」
「話したいことがあります」
「……うん」

ほんの少し腕の拘束が緩み、自然と視線を絡ませるように顔が近づく。
私は深呼吸をして、意を決した。

「私と響さん。響さんが話してくれた時よりももっと前に会ってるんです」
「……え?」
「十年前の一月。高校生だった私と大学一年だった響さんで」
「……え、えっ、何それ、どういうこと?」

驚愕の様子で、彼は固まった。

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