『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「十年前の一月十四日の朝、七時三十分頃。渋谷駅の近くの歩道橋で、階段から滑り落ちそうな女子高生を助けませんでしたか?」
「…………あ、それって、センター試験の日じゃなかった?」
「はい」
「あの日は大学のセミナー合宿があって、渋谷駅前に集合だったから。……え、じゃあ、あの子が芽依だったの?」
「はい。あの時、パニックになって御礼も言えず、本当に申し訳ありませんでした。それと、助けて頂きまして、本当にありがとうございました」
「あ、いや、それは全然構わないんだけど」
「響さんのお陰で、無事に試験を受けれましたし、大学へも入学出来ました」
「……そっか」
「なんですけどね」
「ん?」
「元々、医学部志望していて、医師になろうとしてたんです、あの時までは」
「……ん」
「あの日、響さんに助けて貰った時、……私、響さんに一目惚れしてしまってっ……」
「……は?」
「好きだと気付いたのはもう少し後なんですけど、とにかくあの日が忘れらなくて。響さんと同じ薬科大の薬学部に変更したんです、志望先を」
「っ……、マジで?」
「はいっ……」
「家のスタッフに響さんのことを調べて貰って、……今でいうストーカーなんですけど」
「フフッ、マジかっ」
「痛い女ですみませんっ。……大学を卒業する前の年に、秘書求人があるのを知って、ラスト一年は薬剤師の資格の他に秘書検定やらTOEFLやTOEICとか秘書に必要そうな資格をこれでもかってくらい取ったんです」
「……芽依、めっちゃ可愛いっ」
「んっ……」

再び抱き締められた。

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