『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
好きな女は素面の時に抱きたいのに
「副社長、空港到着後のご予定ですが…―……」
急な出張でロサンゼルスに本社のある製薬会社へと向かう機内。
秘書の如月はいつも通りに職務をこなす。
六月下旬。
梅雨に入った日本は、毎日のように曇天が続き、鬱々とした気分に陥る。
六月のロサンゼルスはイベントが多く、日本とは違いからっとした晴天が多く、鬱々とした気分を一蹴してくれるはず。
「如月」
「はい、副社長」
「今夜は二人で食事しないか?」
「はい?……宜しいのですか?」
「たまにはいいだろ」
「……私は構いませんが」
「なら、決まりだ。好きな店を予約しておけ」
「……はい、承知しました」
たまには俺も褒美が欲しくなる。
好きな女を毎日目にして、手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、何一つできないもどかしさ。
腕尽くで抱いてしまおうかという邪な考えが常に付き纏い、必死に理性を繋ぎ留めている状況。
仕事とプライベートをしっかりと区別している彼女は、俺に笑顔を向けたことが一度もない。
営業スマイルどころか、愛想笑い一つしない、ロボット人間だ。
そんな彼女でも、俺は傍にいてくれるだけで幸せを感じている。
三年前、俺の秘書として応募して来てくれたという『運命』のような奇跡とも思える瞬間を、今も決して忘れることが出来ないのだから。
「Excuse me, can I have some hot water?」(訳:すみません、白湯を頂けますか?)
如月が客室乗務員に白湯を頼んだ。
勿論、自身が飲むわけではなく、俺のためだ。
「副社長」
「ん、……サンキュ」
寝つきが悪い俺は安定剤として睡眠薬を常用している。
それを飲むための白湯だ。