『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

響さんの柔らかい唇が重なった。

私のファーストキス。
二十八歳にして、初めて。

それも、初恋で十年も想い続けて来た人と。

優しく触れるだけのキスが、軽く甘噛みのようにはむはむと……。
終わりが見えない。
ず~っと重なって触れている。

甘えられている感覚に陥りそうで、心臓が小躍りしてしまう。

何度も角度を変えては甘噛みされて。

もしかして、私からもし返さないとダメなのかな……。
キスの経験なんてないから、何をどうしたらいいのか分からない。

ちょっとだけ、真似したらいいのかな。

角度を変え、頭を支える指先にほんの少しだけ力が込められた、その時。
彼のパジャマをそっと掴んで、僅かに口を開けて彼のキスに応えようとした、次の瞬間。

開いた唇の隙間から、彼の熱い舌先が入り込んで来た。

「んっ……っ…」

何これ……、息ができない。
彼の舌先が容赦なく口内を甘く侵す。

くらくらして、何をどうしたらいいのか、考える余裕さえない。
何度も何度も繰り返されるキス。

手を繋ぐだけでも心が満たされたのに。
こんなに感情が漏れ出してしまうほど“キス”の重要さを初めて知った。

もっと触れたい。
もっと触れて欲しい。
もっと求めて欲しい。
もっと、もっと、……もっと。


「芽依」

キスの合間に。

「……好きだ」

熱い吐息と共に。

「――――好きだよ」

一番欲しかった言葉で甘く蕩ける。



キスって、こんなにも体力がいるなんて初めて知った。

「芽依が可愛すぎて、止め時が分からんかった……ごめんっ」

意識朦朧としながら、彼の胸に体を預けた―――。

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