『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



仕事納めの十二月二十七日。
今日は仕事らしい仕事はなく、年末の挨拶に来社する取引先の相手をするくらいだ。

芽依は秘書課に顔を出し挨拶をし、井上の運転する車で自宅マンションへと。
まだ捻挫が完治していないこともあり、半日で早退させた。
無理はさせたくない。
捻挫はしっかりと治さないと癖になる。

「失礼します。副社長、例の件ですが……」
「ん」
「こちらに纏めました」
「助かるよ」
「如月さんには……」
「処理したら話そうと思う」
「……そうですか」

岡本からUSBを受け取り、パソコンに繋ぐ。

「それと、キサラギの伏兵ですが、どうもうちの情報を探っているというよりは、如月さんの日常を監視しているように思います」
「……なるほどな」
「USBの中に幾つかファイルを分けてありますので、ご確認下さい」
「ありがと」
「では、失礼します」

岡本から手渡されたUSBを確認すると、社屋の防犯カメラの映像やうちの会社に潜んでるキサラギの密偵に関する情報と、芽依に怪我を負わせた女性社員の証拠映像やその社員の情報に至るまで記されていた。

そして、Kファイルと記されたファイルの中にあったのは……。

「ん?……ッ?!!……コイツっ」

芽依の自宅マンションの防犯カメラの映像だった。
そこに映し出されたのは、黒い帽子を被った背の高い男が毎日のように芽依の家のポストや玄関まわりをうろついている様子だった。
マンションのエントランスの照明に照らされた男の顔を俺は知っている。

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