『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
どうしよう……。
響さんを傷付けてしまったかも。
彼とちゃんと向き合えたと思えたのに、長年片想いの状態が続いていたせいか、素直になることが難しい。
近くにいるだけで心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うほど、鼓動が暴れて。
抱き締めて欲しいし、頭を撫でて貰いたい。
彼の体の一部にそっと触れるだけで十分なんだけど、いざとなると体が硬直してしまって。
完全に意識しすぎてキャパオーバー。
顔だって絶対紅潮してる。
恥ずかしすぎて、まともに顔も見れない。
「ご都合のいい時間、聞いといて。ちょっと出掛けて来る」
優しい声音で手を伸ばしてくれていた彼が、視線も合わせず出掛けてしまった。
だって、こんな日が訪れるだなんて思ってもみなくて……。
仕事がある日なら、気持ちもある程度切り替えせるんだけど。
連休で完全に彼とずっと一緒だなんて、贅沢すぎて……。
本気なのかな。
明日、うちの両親に会いたいって……。
彼に会わせられるような親じゃない。
響さんの御父様みたいな、あんな素敵な『親』とはかけ離れている。
それでも、通らないとならない道なんだろうけど。
はぁ……。
とりあえず、時間があるかくらい聞かないと。
久しぶりに両親の動向を探るための電話をかける。
勿論、親の携帯番号は知っている。
けれど、会話したくなくてブロックしているから、こちらから掛けづらい。
「もしもし、芽依です。佐山さん、明日の両親の予定を聞きたいんですけど、家にいますか?」
長年家に使えている執事の佐山 敬三(六十三歳)の携帯に連絡を入れた。