『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
『お嬢様、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?』
「はい」
『明日のご予定ですか?お二人ともご在宅かと存じます』
「……そう」
『それが、何か…?』
「会って欲しい人がいるので、午前中に帰ります」
『お嬢様っ!それは、……良いお話と捉えて宜しいでしょうか?』
「どうかしら……?両親にとったら悪い話かもしれないわよ」
『ですが……』
「とにかく、連れてゆきます」
『承知しました。道中お気をつけて』
佐山さんに伝達しておけば間違いない。
彼はいつだって私の味方だもの。
両親からの愛情がどれほど朽ちていても、彼は私をいつも励ましてくれた。
私と歳の近い娘さんを病気で亡くしたこともあり、娘のように心配してくれている。
父親が送り込む、『跡継ぎ授け役』の男との見合いの件もそうだ。
いつも事前にプロフィールや性格などの詳細を教えてくれる。
だから、前もって相手の嫌いなタイプの女性を演じきることができた。
実の両親よりも、佐山さんの方が本当の親だったらどんなに良かったか。
響さんを紹介するなら、一番最初に佐山さんに紹介したいとさえ思える。
『お嬢様にとって、未来を託せる素敵な男性が現れることを切に願っています』
私が家を出る時に佐山さんから贈られた言葉。
高校生の時に、響さんの素性を調べて貰ったのも、佐山さんだ。
だって彼しか、心を許せる人がいなかったから。
他の使用人は、皆、両親の手下にしか思えなくて。
家の中に居場所がなくて、就職を機にやっと掴んだ幸せだった。