『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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「お帰りなさい」
「ただいま。ちょっと書斎に籠るから、先に寝てていいよ」
「……はい」
自分が仕向けた距離感なのに、軽く拒絶されたみたいな態度を取られると心が痛む。
『好きだ』と言って貰えただけで幸せなのに。
それを手にしてしまったら、もっとと欲が出てしまった。
無条件で愛されるだなんて、ありえないのに。
彼の気持ちに真摯に向き合って受け止めないと、愛想を尽かされるって分かってるのに。
捻じ曲がった両親の愛情を浴びせられて、愛情の受け取り方を知らない私は、素直に受け入れる方法を知らない。
どんな顔でどんな風に応えていいのか分からない。
心の中は嬉しくて堪らないのに。
心の扉をパカッと開いて、見て貰えたら楽なのに。
二十時を過ぎて帰宅した彼。
夕食は済ませたのだろうか?
「失礼します。あの、お夕食はお済ですか?」
「……ん、軽く食べたから大丈夫」
「……そうですか」
机に向かい、振り返りもしない。
五日前のあの幸せなひと時とは温度差が全く違う。
面倒くさい女の相手に愛想尽きたのかも。
だって、彼に近づく女性は皆、彼のいいなりで彼を喜ばせるようなことしかしない人ばかりだったもの。
「……響さん」
「………ん?……って、何で泣いてんのっ」
彼の背中を眺めていたら、涙が溢れていた。
好きな気持ちは溢れてるのに、それをどうやって表していいのか分からない。
ドアの前で零れる涙を手で隠そうとしていると、彼が優しく指先で拭ってくれた。