『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「私のこと、……嫌いになりましたか?」
「は?……何で、そう思うの?」
「だって、昨日も今朝も、私が響さんを拒絶したから」
「分かってるよ。……戸惑ってるだけだって」
「っ……」
「そりゃあ、俺も男だからさ、『大好きっ』って抱きついて貰えたら嬉しいけど。でも、嫌って拒絶したんじゃないって分かってるから」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。照れてる顔を見るもの、俺だけの特権だしね」
「っ……」
「少しずつでいいから」
「……はい」

優しく包み込むように抱き締められる。
十年もの間、ずっと夢に描いていた時間だ。

「そう言えば、明日、ご両親の都合はつきそう?」
「あ、はい。確認したら、家にいるそうです」
「そう。じゃあ、明日はバチっと決めないとな」
「両親が、失礼なことを言ったらごめんなさい」
「気にしないよ。ってか、反対されると思って立ち向かうしね」
「っ……」
「未成年なわけじゃないし、俺らの意思だけで結婚は可能だ。だけど、それじゃあ筋が通らないと思うし、仁科の顔に泥は塗りたくないから」
「……はい」

ポンポンと頭を撫でる彼。
優しい笑みを浮かべ、私の不安を一蹴するかのように安心感を植え付けてくれる。

「お仕事されてたんですか?」
「あ、……ん、そんなとこ」
「お手伝いしましょうか?」
「ううん、大丈夫」

机の上に書類らしきファイルが幾つもある。
急ぎの仕事は無いはずなのに…。

「何か、お飲み物でもお持ち致しましょうか?」
「いや、いい。先に休んでて」
「……はい」

部屋の外へと追い出されてしまった。
企業秘密なプロジェクトか何かなのかしら……?

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