『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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「お嬢様、お帰りなさいませ」
「佐山さん、ただいま」
「初めまして、仁科と申します」
「ようこそいらっしゃいました、執事の佐山と申します」
翌日の十時半過ぎ、芽依の実家を訪れた。
「響さん、佐山さんは私が一番信頼してる人です」
「そうか。優しそうな人だね」
「はい」
佐山さんの後を追うように、屋敷の中を歩み進める。
『お嬢様』と呼ばれるだけはある。
令嬢として育った芽依。
一人暮らしを始めたからと言って、その現実は消えはしない。
すれ違う使用人が彼女に会釈する。
「こちらになります」
「ありがとう」
「旦那様、芽依お嬢様がお帰りになりました」
ドアの先は、リビングのようだ。
広々とした空間にくり抜いたように凹ませた、少し変わったデザインのリビング。
一段低く設えられたソファー部分は、高い天井をより際立たせるような雰囲気を醸し出す。
大きな窓から燦燦と降り注ぐ陽の光。
飾り棚に飾られているフレームアートやグラスブーケ、茶器に至るまでセンスはかなりいい。
芽依と共に、ソファーに座るご両親の元へと。
「只今戻りました」
「佐山から、客人を連れて来るとは聞いていたが、君だったとはな」
「ご無沙汰しております、如月社長」
「まぁ、座りたまえ」
「では、お言葉に甘えて、失礼致します」
会合やレセプションの会場などで何度も顔を合わせたことのある人物。
業界のツートップとも言える間柄なのだから、当然だ。
「お口に合うか分かりませんが、宜しければお召し上がり下さい」
好物だとリサーチ済みのものを幾つか用意して来た。
「気を遣わせたようだな。……今日はどういった用件で」