『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
手段は択ばない
芽依の実家から帰宅する車内。
「響さん、本当に取引するおつもりなのですか?」
「あぁ」
「社長…、御父様はご存知なのですか?」
「あぁ、知ってるよ」
「えっ……」
「心配要らない。見合いで政略結婚するのと同じだ。家や親に対して、不利な結婚にならなければ、反対する理由が無くなるだろ」
「ですが……」
「大丈夫だよ、ちゃんと考えてるから」
「……父は狡猾な男です。簡単に折れるとは思えません」
「分かってる。伊達に俺もこの業界で仕事してるわけじゃない」
助手席に座る芽依は不安な色を滲ませ、何度も大きな溜息を吐いている。
「芽依は、結婚式の準備でもしてくれればいいよ。指輪とかドレスとか、選ばないとならないものは沢山あるからね」
膝の上でぎゅっと握られる手に、自分の手をそっと重ねた。
「やっとここまで来たんだ。後戻りするつもりはないし、足踏みしてる時間も惜しい。俺は、芽依と毎日笑って過ごせる日々が待ち遠しいよ」
「っ……」
今何を口にした所で、彼女の不安が消えるとは思えない。
けれど、漸く動き出した人生を、簡単に諦めることも投げ出すことも考えてはいない。
俺の人生に彼女が必要不可欠なのだから。
「足もまだ完治してないし、連休中は家でゆっくり過ごそう」
「……すみません、ご迷惑をお掛けして」
「芽依が謝ることは何も無いよ」
旅行にでも行こうかと思っていたが、さすがに捻挫が完治してないのにあちこち連れ回せない。
芽依が隣りにいてくれるなら、そこがどこであろうと、俺にとったらそれが一番の場所になるから。