『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



「芽依、寒いから沢山着込んだか?」
「はい」

十二月三十一日、二十三時三十分。
年越しで初詣をするために出掛ける準備を施す。

以前は夜越しに女性と過ごしたことが無かった俺にとって、『初詣』を女性と年越しで過ごすことも人生初。
それが、愛する女性と過ごすことができるという幸せに言葉にならないほどの幸福感を味わう。

ある意味、今まで夜越しで過ごさないというブレないスタンスを保っていて良かった。
くだらない放埓ぶりがこんなメリットを生むだなんて。

千代田区にある東京大神宮。
東京のお伊勢様と呼ばれる由緒ある神社。

自家用車で向かっても駐車場に困ると思い、タクシーで向かう。
近場で降ろして貰い、行列を成す参拝者に交じり境内を目指す。

「っ?!」
「人が多いし、足もまだ完治してないから」
「……すみません」

芽依の腰に手を添える感じでそっと抱き寄せる。
見知らぬ参拝者がすれ違いざまに軽く接触し、その度にふらついている芽依を少しでも守ってあげたくて。



「今年は結婚すると宣言したか?」
「え?」
「神社は神様への感謝の意を伝え、自分と向き合い、決断を宣言する場所らしい」
「……そうなんですね。頑張るので見守って下さいと伝えました」
「フッ、それなら大丈夫だろう」
「だといいですけど」

心配なのか、振り返って再び手を合わせる芽依が可愛らしく思えた。

『恋文みくじ』を二人で引く。
万葉集や古今和歌集などの和歌(恋文)に秘められた助言で恋愛成就に導くというもの。

「何か良いことが書いてあったか?」
「……はい」
「俺も」

芽依が嬉しそうな表情を浮かべている。
良いことが書いてあったようだ。

『迷わず信じれば成就する』
目の前にいる芽依を信じていれば、成就するらしい。

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