『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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年末年始の連休も明け、また忙しい日常が始まった。
「副社長、十四時からの小渕薬品工業との打ち合わせですが、三十分ほど遅れると連絡が入りました」
「分かった」
「それから、福岡行きの航空券手配致しました」
「ありがとう」
「本当に同行しなくて宜しいのですか?」
「ん、大丈夫だよ」
「ですが……」
「……心配?」
「へ?……あ、いえ」
急に福岡便の往復航空券を手配してくれと朝一で指示を受けた。
福岡へ行くような業務は無いはずなのに。
「大丈夫だよ、心配しなくても。仕事で行くだけだから」
「……仕事ですか?」
「新事業?新プロジェクトとでも言っておこうかな」
「……そうですか」
今まで、一度も業務上で内容を伏せられたことが無い。
副社長付きの秘書なのだから当たり前なのに。
何故だろう?
明らかに隠し事をされているみたいで、心がズキンと痛む。
「帰って来たらちゃんと話すから、少しだけ待ってくれる?」
「……はい」
私に業務内容に関して口を出す権利なんて最初から無い。
私は彼の仕事をサポートするのが仕事だ。
「明日の七時台の便なので、今夜荷物を纏めておきます」
「助かるよ」
会釈し、踵を返した、その時。
「芽依」
就業中なのに、下の名前で呼ばれた。
違和感を覚えながら、ゆっくりと振り返ると。
「芽依を裏切るようなことはしないから」
私が不安な表情をしてるのを気遣った言葉だ。
「……信じてます」
大丈夫。
二泊三日であっても、もう彼は女遊びをしないと言ってくれたもの。
私はその言葉を信じるしかない。