『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



本来の業務とは異なる案件を処理するために福岡へと飛んだ。

「仁科さん、遅くなってすみません」
「私もさっき来たところです」

今回の出張に同行する福岡県農業法人協会の宮部 紘一(四十五歳)。
大規模な農場を経営しながら、食品加工会社も運営し、最近地場野菜を使ったレストランも始めた凄腕実業家。

農業に関しての知識は勿論のこと、地域の生産者や流通業に関しても幅広く顔が利く人物で、今回の目的である新事業に携わってくれる重要人物だ。

「早速ですが、時期的に冬野菜が大半なんですけど、大規模ハウス栽培のものもあるので、順にご案内しますね」
「有難うございます」

製薬会社と農業。
接点が無いように思うが、響の目には宝の山のように見えている。



二日間かけて沢山の生産者の話を聞き、響の瞳に闘志が宿る。

「では、東京に戻りましたら、資料を纏め、改めてご連絡申し上げます」
「楽しみにしてます」

福岡空港へ見送りに来た宮部。
響と固い握手をかわした。

響は手荷物を預け、チェックインを済ませ、芽依と秘書課への土産を買うため空港内を散策する。
定番の博多牛もつ鍋セットや明太子、梅ケ枝餅、あまおうのどら焼きなど、芽依が喜びそうなものを幾つかチョイスした。


羽田空港に到着し、手荷物受取場でキャリーケースをピックアップし、到着ロビーへと出た、その時。

「お帰りなさい」
「っ……ただいま」

愛する彼女が出迎えてくれた。

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