『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「何で来たの?井上?」
「いえ、電車です」
「じゃあ、タクシーで帰ろう」
「はい」
響さんを迎えに行くとは連絡してなかった。
けれど、航空券を手配したのは私だから、到着する時間は把握済。
「凄い荷物ですね」
「ん?あ、芽依にお土産いっぱい買ったから」
「えっ?!」
「何が好きなのか分からなかったから、適当に王道なものを選んだけど」
「……ありがとうございます」
三日ぶりに見た彼は、相変わらずカッコよくて。
上品なフレグランスの香りがふわっと鼻腔を擽る。
「お仕事、上手くいったんですか?」
「ん、凄く充実した三日間だったよ」
「そうなんですね」
私の知らない三日間。
何をしてたのかすら未だに知らされていない。
帰って来たら教えてくれると言ってたけど、本当に教えて貰えるのかな。
「いい?」
タクシーの後部座席に隣り合わせで座る彼が、人差し指で私の手の甲をツンツンとした。
「っ……、はいっ」
三日ぶりに触れる彼の手。
大きくて温かい。
優しく包み込むように握られた左手が、異様に熱を帯びる。
私が意識しすぎて彼との距離を無理に取ろうとして、彼はそれを受け入れ、気遣ってくれている。
だから、こうして触れる時は、事前に声を掛けたりしてくれる。
触れて貰える嬉しさもあるのに、いちいち確認させてしまっている申し訳なさもあって。
もっと恋愛経験値が豊富だったら、こんな些細なことをいちいち悩んだりしなくて済むんだろうけど。
窓の外をじーっと眺めている彼の横顔を盗み見していると。
「三日ぶりだから、新鮮に見える?」
「っ?!……いつ見てもカッコいいですっ」
「フフッ、そりゃどうも」
視線を窓の外に固定したまま、彼は優しく微笑んだ。