『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
自室の応接用ソファーに芽依を寝かせる。
元から線が細くて、華奢な体の芽依。
そんな彼女が青白い顔で蹲っていた。
本当に医務室に行かなくて平気なのか?
額に手を当ててみたが、熱は無さそうだ。
少し手が冷えてる感じがする。
芽依の席にひざ掛けがあったよな。
それを取りに行こうと腰を上げた、その時。
「……ん?」
「………ないで」
「へ?」
俺のスラックスを抓んだ芽依。
消え入りそうな声で呟いた。
腰を折るようにして彼女の口元に耳を寄せると。
「……ぃかないでっ」
「っ……、どこにも行かないよ」
ヤバい、可愛すぎる。
何これ、初めて甘えられたんだけど。
仕事中はプライベートとしっかり区別してる彼女が、初めて漏らした本音なのだろうか?
……もしかして、ヤキモチ?
さっき、岡本と二人きりになったから?
あ、いや、今までだって勤務中に俺の部屋で二人きりになることなんて何度もあった。
それこそ、女を抱いた後に顔を合わせたことなんて腐るほどあるのに。
じゃあ、何だろう?
熱に魘されてるわけでもないし。
誰かに何か、言われたのだろうか?
あ、もしかして、父親がまた連絡して来たとか?
ありえる。
要らないことをあーだこーだと言われたのかもしれない。
芽依の頭をそっと持ち上げ、膝の上に乗せる。
何に不安を感じているのかは分からないけれど、今は傍にいることで安心を与えたいから。
細く柔らかい髪をそっと撫でる。
すると、くりくりっとした大きな目がゆっくりと細められ、柔らかい笑みを溢した。
「今日の夕飯、麻婆豆腐と炒飯が食べたい」
「っ?!……ンフッ、麻婆豆腐と炒飯ですね」
「うん」
俺にはお前が必要なんだよ。