『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
本気だって、言っただろ
資料室から二人が出て行った後、私は床にへたり込んだ。
胸が苦しい。
吐気がする。
『俺らの結婚は、どんな手を使ってでも必ずする』
どういう意味?
響さんと岡本さんが結婚するってこと?
えっ、ちょっと待って。
響さんにプロポーズされたのは、私だよね?
年末に私の両親にも結婚の許可を貰いに一緒に行ったもの。
何かが引っかかる。
『手段は択ばない』ってどういうこと?
混乱する頭で、ありとあらゆる方向性を考えてみる。
……もしかして、私との結婚の話はカモフラージュってこと?
なんだ、そういうことか。
この三年彼の女遊びにも寛容で、完璧な事後処理もこなす秘書として彼に買われただけ。
彼の思うように、彼の望むものを、彼が要望しなくても自ら率先して完璧にこなす人材。
それが私だっただけ。
岡本さんは社長の信頼も厚く、女性の私が見ても羨むほどの美貌の持ち主。
仕事もできて、取引先の信用も高い。
そんな岡本さんとの結婚で、周りからの圧力を回避するために私を利用したかっただけだ。
だから、彼女は『少し彼を借りるわね?』と言ったのか。
私、馬鹿みたい。
彼が一目惚れだと言ったのを鵜呑みにしてしまった。
自分の初恋の人が、自分を想ってくれるだなんて、奇跡より無いに等しいだろうに。
彼が甘い言葉で女性を口説くなんて、朝飯前なのにね……。
涙が頬を伝う。
スカートの上に幾つもの涙が零れ落ち、床の冷たさで体の芯から凍えそうだ。
何やってるんだろう。
どんなことがあっても、彼の傍にいるために気持ちは封印すると決めてたのに。
感情に流されて、甘い夢を見てしまった罰だ。
いつか訪れるだろうと覚悟してたのに。
本物の彼の恋人が現れてしまった今、私の居場所はなくなった。