『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「俺、芽依に何かしたか?」
「就業中です」
「いいから、答えろ」
「……特に何も」
「じゃあ、何で急にこういう態度を取ってんだよっ」
「公私の区別をしっかりつけたまでです」
「ご両親に結婚の許可を貰えてないからか?」
「だから、先程も申し上げましたように、勤務中にプライベートな話を持ち込まないで下さい」
「俺が言いたいのはそういうことじゃねぇよっ」
「私が申し上げたいのも、そういう話ではありません」
「っ……」

何なんだよっ。
完全にスイッチ入ってる状態じゃねぇか。
『いかないで』って甘えたアレは何だったんだよ。

早いとこ、結婚の許可貰わねぇと、俺が仕事に集中出来ない。
芽依が別人になったみたいで不安になる。

俺ばかりが好きで、愛想つかされたんじゃないかと。

「新事業の最終企画案纏めるから、先に上がれ。今日は遅くなるから、先に休んでていい」

冷視線に耐えられなくなり、その場を後にした。



二十三時過ぎ、帰宅した俺はダイニングテーブルの上に用意されている食事を目にして、溜息が漏れた。

芽依を家政婦のように扱いたいわけじゃない。
例え総菜や弁当のようなものであっても、顔を合わせ他愛ない会話をしながら食事をしたい。

何か気にするようなことを言ってしまったのだろうか?

寝室のドアを開けると、薄明りの中、彼女は相変わらずベッドの端に丸まるようにして寝ていた。

「芽依」

細く柔らかな髪に指先を滑らせる。
寝ている時しか触れられないだなんて……。

「俺にはお前しかいないんだよ」

覚束なげな声が室内に吸い込まれて行った。

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