『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

日に日に芽依の様子が拍車がかかったようになって来た。
完全に避けられている。
気持ちを伝える前のロボット秘書の時よりもパワーアップしてる。

近づくだけで一歩後退りするし、出先で飲み物を買って渡しても完全拒否されて。
会社だけじゃない。
自宅でもそれは継続していて、同じテーブルで食事すらしなくなった。
彼女は作りながら食べているようで、常にダイニングテーブルの上には一人分しか用意されていない。

心がぎすぎすする。
彼女の中で一体何が起きているのか、俺にはさっぱり分からない。
けれど、このままでは俺の身がもたない。



取引先との会食が行われる料亭に到着した俺と芽依。
井上を帰らせ、彼女を連れて予約した部屋へと向かう。

離れになっている純和風の個室に通され、会食相手が来るのを待っている。

「芽依」
「就業中です」
「芽依」
「………」
「お前がそういう態度を取ってると、仕事に集中できない」
「ご自分のお立場をお考え下さい」
「副社長である前に、俺も一人の男なんだよ」
「……私にどうしろと?」
「甘えろとは言わない。けど、せめて拒絶したり避けたりするのは止めてくれ」
「………」
「今だって、俺と目すら合わせようとしないし」

俺の言葉に応えるように、ゆっくりと顔が向けられる。
けれど、その瞳は心を閉ざした温度の無い死んだ目をしていた。

「遅くなり申し訳ありませんっ!」
「いえ、私共も先ほど来たばかりです」

良いのか悪いのか。
いたたまれない空気を打ち破るかのように会食相手が現れ、ホッとする自分がいた。

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