『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
日に日に芽依の様子が拍車がかかったようになって来た。
完全に避けられている。
気持ちを伝える前のロボット秘書の時よりもパワーアップしてる。
近づくだけで一歩後退りするし、出先で飲み物を買って渡しても完全拒否されて。
会社だけじゃない。
自宅でもそれは継続していて、同じテーブルで食事すらしなくなった。
彼女は作りながら食べているようで、常にダイニングテーブルの上には一人分しか用意されていない。
心がぎすぎすする。
彼女の中で一体何が起きているのか、俺にはさっぱり分からない。
けれど、このままでは俺の身がもたない。
*
取引先との会食が行われる料亭に到着した俺と芽依。
井上を帰らせ、彼女を連れて予約した部屋へと向かう。
離れになっている純和風の個室に通され、会食相手が来るのを待っている。
「芽依」
「就業中です」
「芽依」
「………」
「お前がそういう態度を取ってると、仕事に集中できない」
「ご自分のお立場をお考え下さい」
「副社長である前に、俺も一人の男なんだよ」
「……私にどうしろと?」
「甘えろとは言わない。けど、せめて拒絶したり避けたりするのは止めてくれ」
「………」
「今だって、俺と目すら合わせようとしないし」
俺の言葉に応えるように、ゆっくりと顔が向けられる。
けれど、その瞳は心を閉ざした温度の無い死んだ目をしていた。
「遅くなり申し訳ありませんっ!」
「いえ、私共も先ほど来たばかりです」
良いのか悪いのか。
いたたまれない空気を打ち破るかのように会食相手が現れ、ホッとする自分がいた。