『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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あからさまな態度を取っているから、響さんにも私が避けているのが通じているらしい。
これでいい。
少しずつ私に対して不信感を抱くようになれば、そのうち面倒くさくなって嫌気が差すはず。
彼は女性に執着しない性格。
何もしなくても女性が寄って来る。
だから、彼から行動しないとならないような手間のかかる女は邪魔になるはず。
創立百周年のパーティーが来月ある。
それを機に彼の前から消えよう。
仕事は後任の人が困らないように、業務の詳細を丁寧に記しておけばいい。
秘書なんて、私じゃなくたっていいはずだから。
「副社長、創立記念パーティーの招待客名簿になります。お時間のある時にご確認下さい」
「分かった、置いておいてくれ」
「失礼します」
招待客名簿と共に珈琲の入ったカップをデスクに置く。
真剣な表情でパソコンを入力している彼の表情にきゅんと胸が高鳴ってしまう。
もうダメだって分かってるのに。
好きすぎて胸が苦しい。
奥歯を噛み締めて、その場を後にした。
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「ちょっといいか?」
副社長室のドアから彼が声を掛けて来た。
何か急ぎの仕事があるのかと思い、部屋の中に入った、次の瞬間。
「んっ?!!」
ドアが勢いよく閉められ、そのドア横に壁に押し付けられた。
「何の真似ですか、副社長」
「ちょっと充電させて」
「っ……」
頭にキスするみたいに顔を寄せ、体も密着してる。
「就業中です」
「分かってる」
「離して下さい」
「だから、ちょっとだけ充電させて」
どうしたんだろう。
少し弱ってるような彼を見るのは久しぶりだ。