『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「何かあったんですか?」
「……………いや」

昨夜、芽依が親と電話しているのを偶然聞いてしまった。
どういう意味であんな事を言ったのか分からないが、ここ数日の彼女の行動からしても何となく辻褄が合う。

『来月の創立記念パーティーを終えたら、家に戻ります』

単なる帰省という雰囲気ではなかった。
表情も声のトーンも、まるで別人のような感じで。

親から俺との結婚を諦めるように説得されたのだろうか?
でなければ、うちの会社を何らかの形で攻撃するとでも脅されたのか。

何にせよ、傍観できる状況じゃないのは確かだ。
『創立記念パーティー』ね。

あと二週間。
少なくても、あと二週間は芽依と過ごす時間はあるということか。

まぁ、二週間で終わらせるつもりはないけど。



十七時からの会合を終え、待機している車へと。

「井上、悪いな。今日はこのまま上がってくれ」
「え、ここで宜しいのですか?」
「あぁ、如月とこの後ちょっと用があって」
「はい、分かりました」
「じゃあ、また明日。お疲れさん」
「お疲れ様でした」
「えっ、副社長?」

赤坂にある料亭を後にし、芽依の手をぎゅっと掴んで夜の街へと繰り出す。

「あのっ、……ちょっ……副社長っ」
「響、だよ」
「……響さん」
「ん?」
「一体これは……?」
「見たら分かるだろ、……デ・ー・ト♪」
「………」
「っ……、おいっ」

急に足を止めた芽依。
またあの死んだ目をしてる。

「この所忙しかったから、たまにはいいだろ」
「………」
「俺が芽依を甘やかしたいんだから、されるがままにされてろ。ほら、行くぞ」
「っ……、分かりましたっ」

俺の圧に負けたのか、芽依は俺の手を振り払わなかった。

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