『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
*
「副社長、ネクタイは?」
「会社に着いたらする」
「え?」
「ちゃんと持って来てるから心配するな」
「……ですが」
井上が運転する車で出社する。
普段は九時出社なのだが、創立記念パーティーまでの間、業務が立て込んでて一時間早く出社することにした。
井上には俺のサポートさせているということにして、芽依を俺の自宅から一緒にピックアップするように指示済。
芽依が何と言おうが、俺の好きにさせて貰う。
だって、パーティーを終えたら実家に帰ろうとしてんじゃないかと不安でどうにかなりそう。
余裕なんてあるわけない。
仕事のモチベーションだって、全振り芽依だっての。
会社に到着した俺は、鞄からネクタイを取り出す。
手早くネクタイを結び、パソコンを立ち上げ、業務に取り掛かかった。
「失礼します」
珈琲と手帳を手にした芽依が現れた。
「副社長、今日の予定ですが……ッ?!」
芽依が驚くのも無理はない。
だって、今日の俺のネクタイ、彼女のスカーフの色に合わせたリンクコーデにしたんだから。
黄色地に青いストライプのスカーフを首に巻いている芽依。
俺は黄色地に青いストライプのネクタイを結んでいる。
他のスカーフに替えてもいいぞ?
芽依の私物は大体把握してる。
色目を変えたところで、俺も別のものに変えるくらいの愛情表現は造作もねぇんだよ。
俺を見くびんじゃねぇぞ。
周りに俺らのことを少しずつ植え付けてやる。
お前が後戻りできないように……。