『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



好きでいることも、彼との未来も諦めると決断した途端、毎日のように彼からガン攻めされている。

最初は自宅内だけだったのに、会社でも隙あらばボディタッチしてくるし。
出先でも所構わず近づいて来る。

パーソナルスペースが狭いというか、近すぎるとは思っていたけれど。
アプローチをかけて来るだけでなく、最近は甘い言葉も囁くようになった。

私が拒絶したから、岡本さんとの結婚が危ぶまれてるとでも思ったのかもしれない。

私にどうしろというのだろう。

彼と籍だけ入れて、偽装結婚でもしろと言うのだろうか。
彼ならあり得る。
甘い言葉だなんて、腐るほど吐いて来てるだろうし。

それだけじゃない。

毎日の服装にしたってそうだ。
私の服に合わせて、彼も服装を決めているようで、毎日のようにカップルコーデと思われる状態に陥っている。

それは否応なく社内にあっという間に噂が広まるのも当然で。

『副社長と副社長秘書の如月さん、デキてるって噂、本当だったんだね』

針の筵状態の中で仕事をするようになってしまった。



「副社長、そろそろ視察のお時間です」

新しい機種の包装機械を導入した工場へと向かうため、エレベーターで一階へと向かう。

「お疲れ様です。これから視察ですか?」
「あぁ」
「今日はブルーコーデなんですね、とってもお似合いですよ」
「フッ、当たり前だ」

途中の階から乗り合わせた専務秘書の岡本さん。
平然な顔して彼に話し掛けている。

私が青いスカーフ、彼が青いポケットチーフをしているのを嫌味で言ったのだろう。

「ッ?!!」

すぐ目の前に岡本さんがいるというのに、ドアに視線を向けていて気付かないと思ったのか、彼は私の頬にキスをした。

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