『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

『一緒に入る?』

耳元に落とされた言葉。
予想はしてた。
彼が言うんじゃないかと。

客室に露天風呂が付いてる部屋を予約した時点で想定内だもの。
『冗談』とは漏らしたけれど、たぶん彼は本気で口にした。
私の反応を見て、冗談だと誤魔化したってことくらい私にも分かる。

自身の着替えをベッドサイドに置いて、浴室へと向かった。

手早く髪や体を洗う。
長い髪はサッと纏め上げ、浴槽に浸かることなく浴室を出た。

バスローブがあるけれど、それを羽織らずバスタオルを体に巻き付ける。
そして、軽くスキンケアだけ施し、心臓がバクバク踊っている状態で部屋を通過した。

「私も入っていいですか?」
「へ?!………ッ?!!」
「だ、大丈夫ですかっ?!」

目を瞑って湯に浸かっていた彼の前に立つ。
当然のように彼は驚き、溺れそうになった。

「あ、あぁ、大丈夫。……どうした、急に」
「ご一緒してもいいですか?」
「っ……、それは構わないけど」
「では、このまま失礼しますね」

全身から湯気が出まくってるんじゃないかと思うくらい全身が熱い。
彼の視線が向けられているということが、これほどまでに緊張するだなんて。

温水のスパに入った時とは比べものにならないくらい緊張している。

円形の浴槽にゆっくりと体を沈めた。

「結構熱めですね」
「外気温が低いからだと思うけど」
「なるほど」

湯に浸かってないところに冷気が触れて冷えているはずなのに、全然冷えてる感じがしない。
もう……見すぎだから。

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